全身性エリテマトーデスに関して (2021 リウマチ学会)

リウマチ膠原病領域における治療では関節リウマチに対してTNF阻害薬が承認されたことを皮切りにつぎつぎと生物学的製剤が承認されていますが、全身性エリテマトーデス(SLE)に対して承認されている生物学的製剤はまだベリムマブしかありません。SLEに対する新薬承認までの難しさには、SLEの病型の多様性やその多様性のために治療効果の判定が難しいことなどがあります。現在の治療薬もSLEの予後改善には大きく貢献していますが、それでもまだまだ新規の治療薬が望まれる分野であります。

今回の学会ではSLEに対する新たな治療候補に関するセッションがあり、

①I型インターフェロン

②IL-12/IL-23

③CD20

④JAK

⑤IL-2

がターゲットとして紹介されていました。

 

① I型インターフェロン

SLEではI型インターフェロン(インターフェロン-α, インターフェロン-βなど)の作用が亢進している。ということは以前から知られていました。I型インターフェロンについては新型コロナウイルスでも話題になっていますが、主にウイルスが感染したときに最初に働くサイトカインです。ウイルスが体内に侵入すると、生体はウイルスの構成成分であるDNAやRNAといった核酸を認識し、「敵が来た」という反応が始まります。このウイルスに対する防御能を高める第一線の働きをするサイトカインがI型インターフェロンであり、本来はウイルスを排除するための炎症反応なのですが、SLEではこの反応系が亢進し、本来は必要のない反応がおこってしまうことが病態に関わっているとされています。

このⅠ型インターフェロンを抑えるために様々な方法が考えられましたが、受容体に対する抗体を投与して受容体の働きを抑える方法が一番うまくいったようです。

I型インターフェロンの受容体に対する抗体であるアニフロルマブ(anifrolumab)は2つの第III相試験(TULIP-1, TULIP-2)が行われ、TULIP-1では残念ながら有効性を示せなかったものの、TULIP-2では52週の評価でプラセボの有効性31.5%に対してアニフロルマブは47.8%の有効性を示すことができました(N Engl J Med. 2020 Jan 16;382(3):211-221.)。ウイルスへの防御に関するサイトカインを抑えるので帯状疱疹がやや多くでてしまうということがあり、現在のコロナ禍ではI型インターフェロンを抑えてしまうことが危険なのではないかとの懸念はありますが、今後SLEに対する新たな生物学的製剤として承認されるのではないかと期待されます。

 

② IL-12/IL-23

この経路は乾癬や炎症性腸疾患の炎症に大きく関わっており、IL-12とIL-23の共通した構成タンパクであるp40に対する抗体であり、これらのサイトカインの働きを抑える生物学的製剤であるウステキヌマブは、乾癬(尋常性乾癬、関節症性乾癬)と炎症性腸疾患(クローン病、潰瘍性大腸炎)に対して承認されています。IL-23の関与はSLEでは明確ではありませんが、IL-12はSLEでも血中濃度の上昇がみられるため、この経路を阻害することが有効ではないかと考えられました。IL-12はT細胞に働き、インターフェロン-γを産生するTh1細胞への分化を促し、このインターフェロン-γがSLEの病態と関連すると考えられました。

ウステキヌマブのSLEに対する治験は第III相試験まで行われました(LOTUS試験)が、残念ながら有効性を示すことができませんでした。これはウステキヌマブがまったく無効であったというわけではなくSLEの多様性や臨床試験で効果を明らかにすることの難しさが関連しているかもしれません。

 

③ CD20

SLEでは抗dsDNA抗体など多くの自己抗体が病態と関連していると考えられ、これらの抗体を産生する細胞はB細胞に由来しています。また近年ではB細胞は抗体産生だけではなくT細胞への抗原提示やサイトカイン産生によって炎症病態に関わっていると考えられています。B細胞の表面マーカーであるCD20を標的としたモノクローナル抗体であるリツキシマブは臨床試験では有効性を示すことができなかった薬剤のひとつです。しかしながらこのリツキシマブによってB細胞を除去するという治療は、未承認ながらもSLEの重症病態に対してはしばしば試みられています。

リツキシマブはType Iの抗CD20抗体であることに対して、Type IIの抗CD20抗体であるオビヌツズマブは、リツキシマブとは異なる部位でCD20に結合する抗体です。リツキシマブがCD20に結合すると、リツキシマブと共にCD20が細胞内に隠れてしまいやすいため食細胞やNK細胞による細胞障害を逃れやすいのですが、オビヌツズマブが結合した場合ではCD20はそのまま細胞表面にとどまりやすいことに加えて、オビヌツズマブは抗体のFc部分の糖鎖が改変されていることによって食細胞、NK細胞による細胞障害を受けやすくなっていることでB細胞の除去効率がよいとされています。オビヌツズマブは現在CD20陽性の濾胞性リンパ腫のみの適応ですが、Class III, Class IVのループス腎炎に対して第II相試験(NOBILITY試験)では104週の時点完全寛解はプラセボの23%に対してオビヌツズマブ群は41%と良好な結果を示し、現在第III相試験(REGENCY試験)が行われています。

 

④ JAK

関節リウマチなどではすでに臨床応用され、高い有効性を示すJAK阻害薬はSLEに対しても効果が期待されています。JAKはType Iのサイトカイン受容体(さまざまなインターロイキンや造血因子)とType IIのサイトカイン受容体(インターフェロンとIL-10ファミリー)のシグナル伝達にかかわっている分子であり、この分子を阻害することによって幅広いサイトカインの働きを抑えることができます。JAKはJAK1, JAK2, JAK3とTyk2の4種類の分子がさまざまな組み合わせで2つくっついた形をしており、JAK阻害薬はその種類によって少しずつ異なる阻害作用があります。現在すでに市販されているJAK阻害薬や新規のJAK阻害薬ですでに臨床試験がおこなわれています。

 

⑤ IL-2

IL-2はT細胞の増殖に重要なサイトカインであり、カルシニューリン阻害薬の薬効はT細胞のIL-2産生を抑制するということなので、IL-2を投与すると自己免疫疾患が悪くなるのでは?という印象がありますが、IL-2はエフェクターT細胞の増殖だけでなく制御性T細胞の増殖にも関わっているということがポイントのようです。制御性T細胞のIL-2受容体はエフェクターT細胞の受容体よりもIL-2との親和性が高いので、外から少量のIL-2を投与すると制御性T細胞だけを特異的に増殖させることによって、エフェクターT細胞の活性を抑制することができるようです。IL-2の少量投与はさまざまな疾患に臨床応用が期待されており、SLEに対しても臨床試験がおこなわれています。

2021/6/2 SERLA

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