睡眠と免疫

「病気を良くするために、自分でできることはありますか?」

と聞かれることがあります。

それには「よく寝ること、体に良いものを食べること、無理をしないこと、こういう基本的なことが免疫の状態を健康に保つためには大事です」というようなお答えをしています。
これらは誰もが健康を保つために必要だと思うあたりまえのようなことですね。
このあたりまえのようなことの科学的な根拠をご存じでしょうか?
今回はそのなかでも「睡眠」についてお話したいと思います。

「睡眠不足が続くと、体調を壊しやすく、風邪をひきやすい」と感じたことがある方は多いのではないでしょうか。
「よく寝る」ことが免疫の働きを良くしてくれると考えられています。
一方で、免疫反応が睡眠にも影響するという両方向の関係性があるとも言われています。
たとえばインフルエンザに感染した状態を想像してみてください。
意識がぼんやりして、気力がなく、うとうとしてしまいます。これはインフルエンザウイルスに対して起った免疫反応が、脳にも影響するsickness behavior(日本語では「疾病時の行動」というような意味になるでしょうか)と呼ばれる反応が生じることによるものです。
体を安静にさせて、エネルギーを病気の改善に集中させるという働きがあるようです。

この感染症が起こったときにみられる睡眠の変化と、感染症への抵抗性には実際に関連があるのでしょうか?
これは動物実験によって確かめられているのですが、感染によってノンレム睡眠(深い睡眠)が増加することが、感染症からの生存に関連していたという報告があります(1)。
ヒトの研究では、睡眠時間と感染症の発症についての研究があり、睡眠が少ない群(5時間以下)と多い群(8時間)で分けたときに、睡眠の少ない群では肺炎の発症が39%多かったと報告されています(引用文献2。下図)。しかし、興味深いことに、睡眠時間が5時間以下でも、睡眠不足を感じていない場合には感染症の増加にはつながらなかったと報告されており、必要な睡眠時間は人それぞれで異なるということのようです。

このように、睡眠は、感染症から体を守る免疫機能を保つために大切なのですが、感染症だけではなく様々な疾患との関わりがあります。
関節リウマチなどの自己免疫疾患によって、睡眠障害が起こることが知られていますが、睡眠障害は慢性的な炎症状態にもつながり、これは自己免疫疾患を悪化させる悪循環にもつながります。
さらには、糖尿病や動脈硬化などの代謝疾患や、アルツハイマー病などの神経変性疾患、また「がん」においても、睡眠障害が悪影響を与えます。
一方で、充分な睡眠はこれらの疾患に良い影響を与えます。
また、病気だけではなく、ワクチン接種においても、充分な睡眠によってその効果を上昇させるとも言われています。

「良く寝ることは健康のために大切」ということには、ちゃんと科学的な根拠があるのです。疲れたときはよく休む、体に負担をかけすぎないということは、病気とうまくつきあっていくうえで大事なことですね。食事のことなども今後とりあげてみたいと思います。
ご一読いただきありがとうございました。

【参考文献】
Besedovsky L, Lange T, Haack M. The Sleep-Immune Crosstalk in Health and Disease. Physiol Rev. 2019;99:1325-1380.

【引用文献】
1. Toth LA, Tolley EA, Krueger JM. Sleep as a prognostic indicator during infectious disease in rabbits. Proc Soc Exp Biol Med. 1993;203:179-92.

2. Patel SR, Malhotra A, Gao X, et al. A prospective study of sleep duration and pneumonia risk in women. Sleep. 2012;35:97-101.

関連記事

PAGE TOP