全身性エリテマトーデス(SLE)とステロイド中止

今日はSLEとステロイドの中止についてお話しいたします。
日常臨床では、患者さんから“副作用が心配なのでステロイドを止められませんか?”としばしば相談されます。
その際私たちは、“病状が落ち着いていれば、やめていくことを検討できます”とお答えしています。
ステロイドに限らず、お薬には病気を良くするという一面がある一方で、副作用もあるため、“病状が落ち着いたら最低必要量に減らしたい”と私たち医療者は考えています。
一般的にSLEでは、ステロイド、ヒドロキシクロロキン、免疫抑制薬(タクロリムス、ミコフェノール酸モフェチル、ベリムマブ、アニフロルマブ、シクロフォスファミド等)といったお薬を組み合わせて治療を行います。[1]

これらの中で特に副作用に注意している薬は、ステロイドです。
ステロイドは有効な治療薬のため、全SLE患者さんの86%に使われています。[2]
その一方で、感染症・心筋梗塞・脳梗塞・骨粗鬆症リスクの上昇、皮膚がもろくなる等の副作用があり、これらの副作用はステロイドの投与量が多いほど、またステロイドの投与期間が長いほどリスクが上がります。[3]
現にSLE患者さんにおける体へのダメージの原因として、SLE発症早期は病気そのものからくるといわれていますが、長期的なダメージについてはステロイドなどお薬の副作用からくるものも多いという報告もあります。[3]
そのためヨーロッパリウマチ学会(EULAR)は、ステロイド量をプレドニゾロン7.5mg/日以下に下げることを推奨しています。[1]
(欧米人と比べて体重の低い日本人ではプレドニゾロン5mg/日以下に下げるのがよいかもしれません)
またSLE患者さんの治療目標として、Lupus Low Disease Activity Score (LLDAS)という指標があり、この要件としても、診察や検査でSLEの病状が落ち着いている事に加えて、プレドニゾロン7.5mg/日以下になっている事も含まれています。[4]
実際にこの目標を達成できている割合について、日本の研究で、95%以上の患者さんが、プレドニゾロン7.5mg/日以下という目標を達成したという報告もあります。[5]

プレドニゾロン5mg/日以下でも副作用リスクあり

ではプレドニゾロン7.5mg/日以下に下げればそれで終わりでよいのでしょうか???
答えは“No”です。
プレドニゾロン5mg/日程度のステロイドでも、感染症、骨粗鬆症、高血糖などの副作用につながるという報告があるからです。[6]

では実際にステロイドを中止することはできるのでしょうか?
この問いに対してはいくつかの研究報告があり、結論としては、病状を見ながらゆっくりとステロイド中止を検討することができます。
フランスの研究では、プレドニゾロン5mg/日に減量後、ステロイドを「急に」中止した群と、同量を続けた群とで、SLEが再度悪くなるかどうかを見た報告があります。
当然といえば当然の結果ではありますが、ステロイドを「急に」中止した群の方が、SLEの再燃率(再度悪化する確率)が5倍ほど高いという結果が報告されました【図1】。[7]

これは臨床研究という特殊な環境でのデータになりますので、患者さんの病状を見ながら、もっとゆっくりとステロイドを減らしていく実際の診療とは乖離があります。

より実臨床に即したデータもあります。
イタリアの研究では、医師がステロイドをゆっくり減らそうと考えたSLE患者のうち、84.6%でステロイドを減量・中止可能であり、中止後の2年間でのSLE再燃率は23%であったと報告されています。[8]

またカナダからの研究でも、病状が落ち着いたSLE患者で、ステロイドをゆっくりと減らして中止した群と、少量のステロイドを続けた群において、2年間のSLEの再燃率は、ステロイド中止群で33.3%、ステロイド少量継続群で50%という報告もあります。
ステロイドを中止したからといってSLEが特別悪くなるわけではなく、また体へのダメージについてもステロイド中止群の方が少ないと報告されています【図2】。[9]

では、「重症」といわれるような状態になったことがある患者さんの場合はどうでしょうか。
ここでいう重症とは「命にかかわるような状態とされる腎臓の障害や神経の障害、大量のステロイドでの治療を要したSLE患者」と定義してお話しします。
このような患者さん(またはこのような患者さんを診察されている先生方)の中には、「ステロイドをやめるなんてとんでもない」と考えられる方もいらっしゃるかも知れません。
日本からの研究では、ステロイドを中止した患者さんにおいて、以前重症の病気があった患者さん・以前に重症の病気がなかった患者さんを比較し、いずれも1年時点でのSLEの再燃率は20%以下、1000日時点でSLEの再燃は30%程度で再燃率は変わらない、という結果が報告されています。[5]
このことから、重症なSLEに至ったことがある患者さんでも、ステロイドはやめていくことを検討できると考えられます。
もちろん、ステロイド中止後、再燃がみられる可能性もあります。
ステロイド中止後の再燃率が高い患者さんはどのような方なのでしょうか。
前述の日本の研究では、SLEのマーカー(補体・抗dsDNA抗体)が落ち着いていない方、抗Sm抗体及び抗RNP抗体陽性の方では、ステロイド中止後のSLE再燃率が高いとされています【図3】。[5]

昔のSLE診療では、今ほど使用できる薬剤がないために多くのステロイドを使わざるを得ず、副作用によって、顔が丸くなったり、感染症で入退院を繰り返したりと、SLE患者さんの予後が良いとは言いにくい時代がありました。
約40年前に描かれた手塚治虫さんの「ブラックジャック」という作品の「未来への贈りもの」という物語では、治療が難しい患者さんの代表としてSLE患者さんが登場します。
当時の技術では、SLE患者さんの治療が難しいため、未来の治療に望みをかけて人工冬眠をするというエピソードがあります。
ここに昔のSLE診療が十分でなかったことが反映されています。
しかし、近年はSLEに対する治療薬が開発され、ステロイドを減量しやすくなり、SLE患者さんの予後は改善しております。[9]
病状が安定していることが大前提ですので、すべての患者さんでステロイドを中止できるとはいえませんが、「ステロイド中止は目指せる」という理解が広まっており、今後SLE診療はさらに良いものになっていくと信じています。
ご一読いただきありがとうございました。

<参考文献>
1. Fanouriakis A et al. 2019 Update of the EULAR recommendations for the management of systemic lupus erythematosus. Ann Rheum Dis. 2019;78(6):736–45.
2. Mosca M et al. Glucocorticoids in systemic lupus erythematosus. Clin Exp Rheumatol. 2011;29(5 SUPPL. 68):24–7.
3. Piga M et al. Risk factors of damage in early diagnosed systemic lupus erythematosus: Results of the Italian multicentre Early Lupus Project inception cohort. Rheumatol (United Kingdom). 2020;59(9):2272–81.
4. Franklyn K et al. Definition and initial validation of a Lupus Low Disease Activity State (LLDAS). Ann Rheum Dis. 2016;75(9):1615–21.
5. Nakai T et al. Glucocorticoid discontinuation in patients with SLE with prior severe organ involvement: a single-center retrospective analysis. Lupus Sci Med. 2022;9(1):e000682.
6. Ruiz-Irastorza G et al. Glucocorticoid use and abuse in SLE. Rheumatol (United Kingdom). 2012;51(7):1145–53.
7. Mathian A et al. Withdrawal of low-dose prednisone in SLE patients with a clinically quiescent disease for more than 1 year: A randomised clinical trial. Ann Rheum Dis. 2019;1-
8. Tani C et al. Glucocorticoid withdrawal in systemic lupus erythematosus: Are remission and low disease activity reliable starting points for stopping treatment? A real-life experience. RMD Open. 2019;5(2):1–7.
9. Konstantinos Tselios et al. Gradual Glucocorticosteroid Withdrawal Is Safe in Clinically Quiescent Systemic Lupus Erythematosus. ACR Open Rheumatol. 2021 Aug;3(8):550-557.
10. Ruiz E et al. Trends in systemic lupus erythematosus mortality in Spain from 1981 to 2010. Lupus. 2014;23(4):431–5.

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