全身性強皮症 指尖潰瘍(しせんかいよう)

「指先の色が悪い、指に傷ができて治らない、徐々に指が短くなってきた」
時々耳にする、強皮症患者様から発される、『危険』な声です。
これを私たちは聞き逃しません。

強皮症の指尖潰瘍は、血管が傷むこと(血管障害)が原因で起こります(1)。
前章の「レイノー現象」は血管障害の「早期」の合併症で、「重症化」すると「指尖潰瘍」に至ります。(レイノー現象の記事はこちら)

指先へと向かう血液の流れが悪くなることに加えて、その後、血流が再び流れることも血管を傷つけます。
この血管障害を背景に、家事や仕事の際などにできた「小さな傷」から指尖潰瘍へと進展します。血流が悪いことで、指先に酸素や栄養が届かず、傷の治癒が遅れるためです。
また、指先の「骨」も虚血により吸収・縮小されるため、手の指が短くなります。

予防:保温、保湿、保護、禁煙

指尖潰瘍は予防することが重要です。
レイノー現象と同様に、手指の保温や保湿、禁煙は勿論、保護のためにスキンケアを行い、潰瘍のきっかけとなる小さな傷を防ぐことも大事です。
とは言え、手を使うことは家事や仕事をする上で欠かせない動作になります。
万が一、潰瘍が熱を持ったり、膿が出るような場合は「感染の可能性」があるため速やかに受診してください。細菌感染は、潰瘍を重症化させうるので、感染を起こさないことがとても重要です。

治療:内科治療、外科治療

指尖潰瘍の治療は、皮膚科の先生に適切な外用薬や保護剤などの治療をお願いしています。
黄色い膿などが伴う場合は、細菌感染を合併している可能性があり、重度であればドレナージという皮膚切開の処置も必要になります。ただ、外科的処置は逆に潰瘍を悪化させてしまう可能性もあるため、専門家と連携し慎重な判断が必要となります。
内科的な治療としては、手指血流の改善目的に「血管拡張薬」が中心となります(下表)。
従来、高血圧症の治療に用いられる薬剤や、皮膚潰瘍の改善に適応を有する点滴薬が用いられてきました。
最近では、肺動脈性肺高血圧症の治療に用いられる薬剤が強皮症の指尖潰瘍の発症予防に有効であると認められました(2)。
また、痛みの管理も重要です。
痛みがあると、血管が縮みやすくなり、血流の改善が遅れるためです。我慢する必要は全くありません。ぜひご相談ください。

指尖潰瘍を始めとした強皮症の治療は発展途上であり、極めて有効な治療法は依然として確立していないのが現状です。
私達は、患者様に病気と正しくうまく付き合って頂くために、生活指導や薬剤選択を含めた診療を通じて尽力致します。ご一読頂き、ありがとうございました。

【関連記事】
全身性強皮症 はじめに
レイノー現象

引用文献
(1) Michael Hughes, Ariane L Herrick. Rheumatology (Oxford). 2017 Jan;56(1):14-25.
(2) Marco Matucci-Cerinic, Christopher P Denton et al. Ann Rheum Dis. 2011 Jan;70(1):32-8.

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