全身性強皮症(以下、強皮症)は、文字通り、「全身の皮膚が強くなる病気」です。
「皮膚が強くなるってどういうこと?」
「それは皮膚が徐々に硬くなっていくということです。」
患者様とのこんなやりとりから、強皮症の説明は始まります。
強皮症は皮膚を始めとする全身臓器に線維化をおこす、歴史ある古典的な膠原病です。
1836年にイタリア、ミランの医師であったFantonettiが成人の皮膚疾患の1つとして強皮症(scleroderma)という言葉を初めて用いたことから始まったとされています(1)。
日本語の語源では堅いや丈夫を意味する「強(こわ)し」から名付けられたのではと聞いたこともあります(きっと諸説あります)。
強皮症の特徴である線維化は、創傷治癒に必要な人間の防御機能の1つです。
例えば、転んで、皮膚が傷ついた様子を想像してみてください。
傷ついた皮膚は数日でかさぶたを経て、傷跡を作り、最終的には元通りになります。
ここでの損傷した皮膚をくっつけて、修復する機能が「線維化」というわけです。
強皮症は、この線維化が何らかの原因で過剰となり、傷ついてもいないのに、皮膚にコラーゲンなどの修復に関わる膠原線維過剰に沈着し、徐々に皮膚が硬くなっていく病気です。これはまさに膠原病、膠原線維の病気なのです。
強皮症が皮膚疾患を超えた、全身性の病気であると判明したのは、1945年にアメリカ、ケープタウンのGoetzが強皮症と他の臓器合併症との関連を報告した頃からとされています(1)。
この過剰な線維化は皮膚のみならず、稀に腎臓や肺、心臓など全身の色々な臓器に生じることがわかり、全身性強皮症と呼ばれるようになりました。
1969年には、強皮症の病態には線維化に加えて、私たちの体、全身を巡っている血管の異常も併存する可能性が示唆されました。その後には、血液中から強皮症に特徴的な自己抗体が発見され、線維化や血管の異常に加えて、自己免疫の異常も背景にある疾患であることが認識されました(1)。
このように強皮症の病態は血管の異常(血管障害)・自己免疫の異常・線維化の3つが挙げられています(2)。この3つが連動して強皮症の病態を形成しているため、どれか1つを良くすればよいという訳ではないのです。これが強皮症の病態解明や、その先にある治療法の開発が難しい理由と考えられています。
180年以上の歴史がある強皮症ですが、実際に長年、治療法の確立はうまく進んでいませんでした。しかし、近年は技術の進歩により病態の解明が徐々に進み、私たちは各患者さんの症状に合わせて、強皮症とその臓器合併症に対して、有効性が期待できる治療を提案することが可能になってきています。
説明を受け止められる患者さんの反応はもちろん様々です。
「一概にとは言えませんが、病状によって注意点を守って、しっかり付き合っていけば、そんなに悪い病気ではありませんよ。一緒にがんばりましょう。」とお話ししています。
今後もこのコラム記事を通して、強皮症の症状・検査・治療について、皆様に少しでも安心と信頼をお届けしたいと思います。
ご一読いただきありがとうございました。
引用文献
(1) Fredrick M Wigley et al: Clinical Features and Treatment of Scleroderma. Kelley and Firestein’s Textbook of Rheumatology 10th Edition:1424-1460.
(2) John Varga, et al: Pathogenesis of systemic sclerosis: recent insights of molecular and cellular mechanisms and therapeutic opportunities. J Scleroderma Relat Disord 2017; 2(3): 137-152.