全身性エリテマトーデス(SLE)と妊娠

膠原病は若い方も罹患される病気のため、「膠原病があっても妊娠できますか」というお声を聴くことも多くあります。
SLEの患者さんでは、全患者さんの半数弱が妊娠可能年齢といわれていますので、今回はSLEと妊娠についてお話しさせていただこうと思います。

大事なことは大きく分けて2つあります。
1つ目は妊娠によるSLEの病気への影響、2つ目はSLEによる妊娠への影響(お母さん、赤ちゃんへの影響)です。
1つ目の妊娠による病気への影響として、SLE妊婦さんの4人に1人程度が妊娠中に病気の再燃を経験されると報告されています。
2つ目のSLEによる妊娠への影響として、SLEの妊婦さんでは妊娠中毒症や早産のリスクが(病気のない妊婦さんと比べて)数倍高いことが知られています。1)
その一方で妊娠前にしっかりとSLEの病状を落ち着かせることで、妊娠中に病気が悪くなることや、妊娠に伴った妊婦さん・赤ちゃんの合併症の発生を減らすことができます。2)

以前はSLEの患者さんの妊娠では、病気のない妊婦さんの何倍も妊婦さんの死亡のリスクが高かった時代もありましたが、この数十年で治療法が発展したこともあり、SLEの妊婦さんの死亡リスクは病気のない妊婦さんとほぼ同程度になってきています。3)
一般的に下の図のような状態である事を確認後に妊娠することで、お母さん、赤ちゃんのより安全な妊娠・出産につながります
1)より作成

重症のSLE患者さんの妊娠について

SLEと一言にいっても軽症の方から重症の方までいらっしゃいます。一般的に腎臓が悪くなるような方・神経の病気が出る方、たくさんステロイドを使っている方などは重症の分類に入ります。
“主治医から「あなたは過去に腎臓に病気のあった重症なSLEなので、妊娠したらSLEが悪くなるから妊娠はしたらだめだよ」とドクターストップがかかっています”というご相談を伺うこともあります。
もちろん前述の通り、病気が悪い状態で妊娠した場合に、妊娠中にSLEが悪くなってしまうことが多いため、“まずSLEを落ち着かせてから妊娠しましょうね”というお話を最初にさせていただきます。最近の論文では、過去に重症になったことがあるSLEの妊婦さんと、それ以外のSLEの妊婦さんの妊娠転帰を比較して、現在SLEの病状が落ち着いていれば、過去に重症なSLEがあった妊婦さんでも、妊娠転帰はそれ以外のSLEの妊婦さんと同じくらいだと報告されています。4)
そのため、“過去に重症のSLEがあったから絶対に妊娠できない”ということはないので、妊娠をご希望される方には、是非担当の先生と妊娠について話し合うことをお勧めししています。

計画的に妊娠を行うことの重要性

膠原病の治療薬すべてではないですが、一部の薬は赤ちゃんに悪影響が出ることもあるので、妊娠を計画されている方は、担当の先生と今使っている薬が妊娠中も安全に使えるかどうかご相談ください。その際にいつ頃妊娠したいかを伝えることも大切です。
このようなご相談を受けた場合、私たちは妊娠中に使用しても安全と考えられている薬に切り替えて、その後数か月間、病状が落ち着いていることを確認します。
妊娠期間は10か月前後ありますので、こうしたステップを一つ一つ踏んで計画的に妊娠することで妊娠中の病気の悪化や早産などの赤ちゃんへの影響を減らすことができます。5)
1日400μgの葉酸の摂取、禁煙・禁酒などの生活習慣改善も赤ちゃんの健康を保つために重要です。これに加えて痩せすぎや太りすぎなども赤ちゃんへの悪影響が出うるので、妊娠時は適正体重を保つように心がけましょう。6)

すこしでも膠原病をお持ちのお母さんの妊娠出産のお役に立てればと思います。
今後も膠原病と妊娠出産というテーマで適宜更新させていただきます。
ご一読いただきありがとうございました。

1) Giles I, Yee CS et al. Stratifying management of rheumatic disease for pregnancy and breastfeeding. Nat Rev Rheumatol. 2019 Jul;15(7):391-402. doi: 10.1038/s41584-019-0240-8. Epub 2019 Jun 11. PMID: 31186540.
2) Skorpen CG et al. Influence of disease activity and medications on offspring birth weight, pre-eclampsia and preterm birth in systemic lupus erythematosus: a population-based study. Ann Rheum Dis. 2018 Feb;77(2):264-269. doi: 10.1136/annrheumdis-2017-211641. Epub 2017 Nov 1. PMID: 29092851.
3) Mehta B et al. Trends in Maternal and Fetal Outcomes Among Pregnant Women With Systemic Lupus Erythematosus in the United States: A Cross-sectional Analysis. Ann Intern Med. 2019 Aug 6;171(3):164-171. doi: 10.7326/M19-0120. Epub 2019 Jul 9. PMID: 31284305.
4) Nakai T, Kitada A, Fukui S, Okada M. Risk of adverse pregnancy outcomes in Japanese systemic lupus erythematosus patients with prior severe organ manifestations: A single-center retrospective analysis. Lupus. 2021 Aug;30(9):1415-1426. doi: 10.1177/09612033211016074. Epub 2021 May 20. PMID: 34013819.
5) Rajendran A et al. The importance of pregnancy planning in lupus pregnancies. Lupus. 2021 Apr;30(5):741-751. doi: 10.1177/0961203321989803. Epub 2021 Jan 28. PMID: 33509066; PMCID: PMC8026487.

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